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金沢地方裁判所小松支部 昭和44年(ワ)3号 判決 1971年8月19日

原告

桝田源三郎

ほか一名

被告

千滝力夫

ほか一名

主文

被告千滝力夫は原告桝田源三郎に対し金六〇、〇〇〇円並びにこれに対する昭和四三年一〇月二五日から支払ずみに至る迄年五分の割合による金員を支払え。

原告桝田源三郎の被告千滝力夫に対するその余の請求並びに被告泉沢澄吉に対する請求をいずれも棄却する。

原告崎出貞子の請求を棄却する。

訴訟費用中原告桝田源三郎と被告千滝力夫の間で生じた分はこれを五分し、その四を原告桝田源三郎の、その一を被告千滝力夫の負担とし、原告桝田源三郎と被告泉沢澄吉との間で生じた分は原告桝田源三郎の負担とし、原告崎出貞子と被告らとの間で生じた分は原告崎出貞子の負担とする。この判決は原告桝田源三郎の勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一、当事者双方の求める裁判。

一、原告両名

被告両名は各自原告桝田源三郎に対し金三〇〇、〇〇〇円、原告崎出貞子に対し金五〇、〇〇〇円並びにこれに対する昭和四三年一〇月二五日から各支払ずみに至る迄年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

二、被告両各

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二、当事者双方の事実の主張

一、原告両名の請求原因

(一)  昭和四三年一〇月二五日午後六時一〇分ごろ次の交通事故が発生した。

場所 小松市今江町ツ三〇番地先付近路上(国道八号線)

道路状況 平坦で障害物はなく見通しも良好、道路幅員約一五米。追越禁止区間。

事故車両 加害車両はダンプカー(石・一・せ・二九〇八)

被害車両は軽貨物自動車(六・石・く・九一五三)

運転者 加害車両は被告千滝力夫、被害車両は原告崎出貞子

所有者 加害車両は被告千滝力夫、被害車両は原告桝田源三郎

(二)  事故の態様

原告崎出貞子運転の車両が、粟津方面より小松方面に向けて時速約四五キロメートルで国道八号線のセンターラインと左側路肩との中央よりやや左側を直進していたところ、被告千滝力夫運転の車両がその後方より時速約六〇キロメートルでこれを追い越そうと試み、前記事故発生地付近で被害車両の右側へ出たところ、車間距離が不適当であつたため、自車の車体左側部を被害車両の車体右側部に接触させたか、或いは自車前部を被害車両の後部右角に激突させて、同車を進行方向左前へ半回転させ横転々覆の上大破させたものである。

(三)  被告千滝力夫の過失の内容は次のとおりである。

本件現場は追越禁止区域に指定されているに拘らず、被告千滝が制限時速五〇キロをこえる六五ないし七〇キロで被害車両を無理に追越そうと試みたもので同被告の過失は明らかである。

加えて、同被告は被害車両を前方一五・六メートルに接近してはじめて発見したのであるから、前方注視義務も怠つていたものである。更に後続車が先行車に突然接近した場合、先行車両の運転者が驚いてハンドル操作を誤る場合もあるから、後続車としては先行車との車間距離を適当に保ち、それとの接触を避ける義務があり、いわんや追越し等をすべきではない。

(四)  本件事故により原告らは次の損害をうけた。

(1) 原告桝田源三郎

(イ) 金二五六、〇〇〇円

これは本件事故により同原告所有の前記車両が修復不能の程度に大破したことによる損害である。

即ち、同原告はこの車両を昭和四二年八月に金三二五、〇〇〇円で購入したのであるから、事故発生時の価格を定額法により算出すると次のとおりとなる。

325,000-{(325,000-32,500)×0.2×14/12}=256,750

なお32,500は残存価格、耐用年数5年 償却率0.2 使用期間は14ケ月。

この内金二五六、〇〇〇円を請求する。

(ロ) 金四四、〇〇〇円

同原告の支出した本件訴訟の弁護士費用である。

(2) 原告崎出貞子

金五〇、〇〇〇円

同原告は本件事故により全身打撲の傷害をうけ、且つ自己の運転していた雇主である原告桝田の車両を修復不能の程度に迄破損され、著しい精神的苦痛をうけた。右はその慰藉料である。

(五)  被告両名の責任

被告千滝は運行供用者責任と不法行為責任、被告泉沢は使用者責任にもとづき、右損害を賠償する義務がある。

(六)  よつて原告らは被告らに対し「第一の一」記載の金員の支払を求める。

二、被告両名の答弁。

(一)  請求原因第(一)項の事実のうち、被告千滝運転の車両が加害車であり、被告崎出運転の車両が被害車であるとの点、道路幅員が約一五米であるとの点は否認、被告崎出運転の車両の所有者並びにその車両番号は不知、その余の事実は認める。

(二)  本件事故は原告崎出の自損行為である。即ち本件事故直前、被告千滝は時速四〇キロないし四五キロの速度で原告崎出の車両の後方約一五米ないし一六米の車間距離を保つて同方向に進行していた。ところが事故現場に差しかかつたところ、原告崎出の車両がにわかに左右にジグザグ運転をはじめたので被告千滝は直ちにブレーキをかけて警戒態勢をとつたが、原告崎出の車両は二、三回ジグザグしたあと道路左側へ片寄り車道外の路肩部分へ進入したので、被告千滝は同原告が進路をゆずつたものと判断し、同原告の車両の右側を進行しようとしたところ、一旦路肩へ入つた右車両が急に右方へ飛び出してきて被告千滝の車両の左側部に衝突し転覆したものである。

道路左側路肩へ出たのち再び右方へ飛び出した原因については被告千滝においてはその詳細を知りえないけれども、その状況から推測すると、原告崎出の運転未熟か、無謀操縦ないしは車両故障のいずれかである。

ただいずれにしても原告崎出の一方的責任によるもので被告千滝に過失はない。

(三)  原告両名主張の損害の発生についてはすべて不知、また被告両名の責任原因については争う。即ち被告千滝はその所有にかかるダンプカーで土砂運搬等の業務に従事していたが、前記のとおり同被告はこの事故につき無過失であり、被告泉沢については被告千滝を雇用していないのは勿論、同被告に下請させて指揮監督した事実も全くない。

第三、証拠関係〔略〕

理由

一、昭和四三年一〇月二五日午後六時一〇分ころ、小松市今江町ツ三〇番地先付近路上(国道八号線)で、被告千滝力夫運転のダンプカーと原告崎出貞子運転の軽貨物自動車が交通事故を起したことは当事者間に争いがない。

二、そこで右事故発生の経緯につき判断する。

〔証拠略〕を綜合すると次の事実が認められる。

右道路は幅員約九米の国道であつて、事故発生地点はやや下り勾配で前方の見通しもよいが追越禁止区間となつている。そして原告崎出運転の軽貨物自動車が時速約四五キロ位でこの地点へ差しかかつた際、原因は判然としないが突然同車両がジグザグと蛇行進行し、一旦は左側路肩の草むらの中へ(現在この部分はコンクリート舗装されているが、当時は草が密生し、未舗装であつた)入つたが、また右へ揺れ道路上へ出てきた。被告千滝運転のダンプカーは右車両の後方を進行しており、先行者がこの蛇行をはじめた時は直ぐ後方へ追つていたが、一旦左側路肩へ突込んだ先行車が道路上へ戻つたあと、また左側へ寄つたので、被告千滝は軽率にもその右側を追抜こうとして直進したところ、原告崎出の車両が再び道路中央部へ寄つてきたため、その右前部が被告千滝運転のダンプカーの左側部左前輪付近へ衝突し、このため原告崎出運転の車両は道路左端へ転覆し、大破したものである。

ところで、原告らは右蛇行の事実を否定しているが、前掲各証拠によれば、原告崎出も事故時に現場へ来た警察官に対し、この事実を自認していること、衝突地点前の路肩草むら部分に車輪跡がみられたこと等からしてこの点の原告らの言い分は認められない。

以上の事実が認められ、原告崎出、被告千滝(一、二回)の各本人尋間の結果中右の認定に沿わない部分は措信しない。次にこの蛇行の原因であるが、これが原告崎出の運転上の過誤によるものか、車両の整備不良又は機器装置の故障によるものか証拠上はつきりしない。しかしかような蛇行の末自ら被告千滝の車両に衝突したのであるから、本件事故の第一原因は原告崎出の運転車両にあるというべきである。一方被告千滝についても、この地点が追越禁止区間であり、加えて先行車が異常な形で進行するのを現認したのであるから、追越しは当然避けるべきであるにも拘らず、蛇行している先行車を敢て追越そうとしたのであるから同被告の落度も否定できないところである。

三、そこで本件事故により発生した損害額につき検討する。

〔証拠略〕によると、この事故によつて大破した原告崎出運転の軽貨物自動車(ホンダ三六〇cc)は原告桝田の所有車で、同人はこれを昭和四三年六月ころ中古車を金二五〇、〇〇〇円で購入し、その従業員である原告崎出に通勤のために使用させていたものであるが、その新車価格は金三二五、〇〇〇円で事故迄に約一四ケ月走行していることが認められる。

ところで、原告らの主張している算式は「減価償却資産の耐用年数等に関する」大蔵省令によるものであるが、右認定のように原告桝田がこれを金二五〇、〇〇〇円で購入した事実に徴すると本件につき右算式をそのままあてはめるのは相当でない。ただ本件においてはその時価を直接認定しうるに足りる証拠がないので、当裁判所としては右省令に準じ、右購入価格から、新車価格の一〇分の一を償却残存価格として控除し、更に購入時より事故時迄の四ケ月の償却費を金一七、五〇〇円とみて更にこれを差引き、結局右軽貨物自動車の事故時の価格を金二〇〇、〇〇〇円と評価することとする。

次に原告崎出の損害であるが、同原告が本件事故によりその主張のような傷害をうけたという証拠はなく、また右物損事故により同原告に慰藉料請求権が発生するとも考えられない。また原告桝田の請求する本件訴訟の弁護士費用の点については、同原告の支出の有無、その額のいずれについても証拠上はつきりしないのでこれを損害として認めることはできない。

四、ところで、この事故の原因は前記事故の態様として認定した事実によれば、その主因は被告崎出の運転操作の誤りか或いは原告両名の車両整備不良によるものと考えられるところ、被告千滝も前記のように蛇行する先行車を危険をおかして追越そうとした落度はやはり過失といわざるをえないのでその過失割合は原告側七に対し被告千滝三とみるのが相当である。とすれば本件事故により生じた損害は前記認定のとおりであるから、右割合に従つて過失相殺し、被告千滝は原告桝田に金六〇、〇〇〇円を賠償すべきことになる。

なお原告らは被告泉沢に対しても損害の賠償を求めているが、〔証拠略〕によれば、同被告はかねて個人営業として運送業を営んでいたが、本件事故の発生前である昭和四三年八月に会社組織に変更し、事故時には泉沢運輸株式会社の名称で資本金二〇〇万円、代表者は被告泉沢として営業していたことが認められるので、被告泉沢個人が被告千滝の使用者であるとの原告らの主張は爾余の点を判断する迄もなく失当であり、従つて被告泉沢には賠償責任はない。

五、以上判断のとおりであるから被告千滝は原告桝田に対して金六〇、〇〇〇円とこれに対する事故発生日から民事法定利率による遅延損害金を付して支払う義務がある。

よつて原告桝田の請求を右の限度で正当として認容し、被告泉沢に対する請求並びに被告千滝に対するその余の請求はいずれも失当として棄却し、被告崎出の請求についても失当として棄却することとし、民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 宮本増)

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